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秋が深まり冬の足音も近づいてくる頃、各地の酒蔵や酒屋の軒先には、新酒ができたことを知らせる「杉玉」が吊るされます。しぼりたての日本酒を味わえる季節の到来です。
今では日本酒といえば、美しく透明に澄んだお酒がイメージされるでしょう。この濁りのない澄んだお酒―清酒を造る技術が確立したのは、今から約400年前の兵庫県・伊丹市だと伝えられています。
今回は、清酒の発祥地・伊丹の酒の歴史を学び、味わえるスポットを巡ります。
「伊丹諸白」の誕生
清酒発祥の地・鴻池
伊丹が清酒発祥の地とされる所以は、現在の伊丹市北部・鴻池(こうのいけ)に建つ石碑にあります。その石碑には、戦国武将・山中鹿介(やまなか しかのすけ)の子孫である新六幸元(しんろくゆきもと)が、1600年頃、鴻池の地ではじめて清酒を造り、江戸まで出荷したという内容が刻まれています。
ちなみに、清酒が生まれる以前は、お酒といえば、「どぶろく」ともよばれる白く濁った酒が主流でした。
その後、清酒造りの技術は、伊丹の酒造家たちの手によって発展。量産化が実現し、運搬・販売のしくみも整えられ、伊丹は酒造りのまちとして栄えていきました。
精白米を使った上等な酒
伊丹で造られる酒は、原材料となるもろみの掛米と麹米の両方に、精米した白米が贅沢に使われたことから、「伊丹諸白(いたみもろはく)」とよばれ、好評を博しました。現在でこそ、掛米と麹米に精白米を使う製法は一般的となっていますが、江戸時代までは精米技術がそれほど普及していなかったため、掛米にだけ精白米を用いた「片白(かたはく)」とよばれる濁り酒が主流でした。それゆえに、「諸白」は上等な酒の証とされたのです。
「下り酒」として江戸っ子に愛される酒に
「樽廻船」に積まれて江戸へ
伊丹で造られる酒の多くは、伊丹の清酒造りの技術を導入し台頭した「灘五郷」の酒とともに、酒樽を専門に運ぶ「樽廻船(たるかいせん)」に積まれて、海路で江戸へと出荷されました。その酒は、“上方”から江戸へ“下って”くることから「下り酒(くだりざけ)」ともよばれ、江戸の人びとの間で人気を得ました。
このようにして、伊丹は江戸時代の間に、上等な日本酒の名産地として確固たる地位を築いていきました。
酒造りの物語が「日本遺産」に
酒造りから運搬・販売に至るまで、清酒のスタンダードを築いた伊丹と灘の酒造りは、2020年6月、『「伊丹諸白」と「灘の生一本」下り酒が生んだ銘醸地 伊丹と灘五郷』というストーリーで、文化庁により日本遺産に認定されました。
日本酒をテーマにした日本遺産は、全国初でした。
ストーリーの中には、酒造りを伝える歴史資料や道具、酒の運搬に貢献した「菰樽(こもだる)」(上の写真)の技術から、酒造りの作業に合わせて歌った「酒造り唄」まで、5市にまたがる52の文化財がふくまれています。
伊丹の日本酒を学ぶー日本最古の酒蔵「旧岡田家住宅・酒蔵」
国指定重要文化財の「旧岡田家住宅・酒蔵」では、江戸時代の酒造りの様子や、清酒で栄えた伊丹の歴史について学ぶことができます。
もともと「伊丹郷町館」という名前で親しまれていた施設ですが、2022年4月に、市立伊丹ミュージアムの一部となり、新たに映像資料なども追加されました。
建物は正面から順に、「店舗」、「釜屋・洗い場」(酒造りの作業がおこなわれた場所)、「酒蔵」が連なった構造をしています。
最も古い「店舗」部分が建てられたのは、江戸前期の1674年。じつは、全国の酒蔵の中でも、建立時期がはっきりと判明しているのは非常に珍しいこと。旧岡田家住宅は、年代が確かな現存の酒蔵の中で、日本最古の蔵です。
ここでは、建物の所有者が移り変わりながらも、1984年まで酒造りが続いていました。
展示で体感 伊丹の酒造り
館内では、工夫を凝らした見せ方で、伊丹の酒造りの歴史を分かりやすく伝えています。例えば、江戸時代の書物に描かれた伊丹の酒造りの様子を、アニメーションにした映像。酒の名産地として多くの歴史的資料に記録が残る伊丹だからこそ、できる展示です。
また、米を蒸すための大きな竈や、酒を絞るための大規模な器具を、発掘された状態のまま公開するダイナミックな展示も、目をひきます。
息づかいの感じられる建物
そして何よりも、建物そのものが、かつての酒造りの空気感を、生き生きと伝えます。
旧岡田家住宅は建立以降、酒造りの規模の拡大とともに、間取りの変更や増改築を繰り返してきました。また、1995年の阪神・淡路大震災では、建物が大きく損傷。その後約4年かけて解体修理がおこなわれました。
現在は、発掘調査や柱の繋ぎ目などをもとに、建立当時の間取りが再現されています。
天井の立派な梁や、柱をじっくり見ると、年代の異なるものが混じり合っていることに気づきます。また、竈にも、何度も作り替えられた形跡が見てとれます。
古い柱に残る傷からは、「酒造りの作業中についた傷なのだろうか」など、想像がふくらみます。
このように、時代の移り変わりの跡があちこち残る蔵の中にいると、かつてここで酒造りをした、あるいは住まった人びとの息づかいまでもが、感じられてくるようです。
現在も地域の中心に
旧岡田家住宅は、重要文化財でありながら、さまざまなイベントの会場としても活用されるなど、地域に開けた存在です。例えば酒蔵のスペースでは、伊丹にゆかりのあるアーティストが出演する音楽コンサートなどがおこなわれることも。関心のあるイベントに合わせて、訪問するのもおすすめです。
酒造りの道具が勢揃い!小西酒造「長寿蔵」のミュージアム
旧岡田家住宅・酒蔵から徒歩数分。築250年以上の酒蔵を改装した、小西酒造の「長寿蔵」は、1階にレストラン・2階にミュージアムを備えた施設です。
2階のミュージアムでは、江戸時代の酒造りに使われた、大小・用途も多様な道具を展示。圧巻なのはその数で、全部で130種200余点にものぼります。旧岡田家住宅で放映されるアニメーションに登場する酒造りの道具を、実物で見ることができます。
伊丹の日本酒を味わうー伊丹に根ざす老舗酒造メーカー
小西酒造
小西酒造は、1550年創業の酒造メーカー。
現存する最も古い日本酒の銘柄「白雪」を守り続けるとともに、時代の変化に合わせたバリエーション豊かな日本酒を手がけています。また、日本酒造りで培った醸造技術を活かし、クラフトビールの製造もおこなっています。
▶︎小西酒造
HP:https://www.konishi.co.jp/
「長寿蔵」1階のレストランでは、小西酒造の造る日本酒も、クラフトビールも、同時に味わうことができます。それぞれに合う料理も豊富に取り揃えられており、地元でも人気のレストランです。
また、併設するブルワリーショップでは、小西酒造のさまざまな銘柄の日本酒を有料試飲サーバーでお楽しみいただけます。
伊丹老松酒造
伊丹老松酒造は、1688年創業の酒造メーカー。
300年以上の歴史を持つ銘酒「老松」は江戸時代、「御免酒(ごめんしゅ)」と称され、幕府に献上される酒の一つでした。御免酒は、一般の酒と区別される格式の高いもの。なかでも「老松」は、将軍の御膳酒としても出される最上位の酒でした。相撲番付に模した江戸時代の「銘酒番付」でも、「老松」は「大関」に位置付けられています。
現在でも、「老松」のラベルには、この「御免酒」の文字が記されています。
伊丹老松酒造の直売所では、定番の銘柄から季節のお酒まで購入できるほか、土日限定で、試飲もおこなっています(有料)。
また、店先には水汲み場が併設されており、地下約95mから汲み上げられた酒造り用の地下水を分けていただけます。現在も伊丹老松酒造の酒造りに実際に使われているお水です。
酒造りの物語をお供に味わってみて
今回ご紹介した施設は、すべて徒歩で巡ることができます。清酒とともに栄えた伊丹のまちで、酒造りの物語にふれながら、日本酒を味わってみてはいかがでしょうか。400年以上もの酒造りの歴史と、その文化・伝統を受け継いできた人たちについて学ぶ後でいただく日本酒は、一段と美味しく感じられるはずです。
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