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「備前焼」はさかのぼれる限り日本最古の焼物として知られています。古墳時代から岡山県備前市周辺で作陶が始まり、その歴史と技術は連綿と受け継がれてきました。土の力強い風合いと、特徴的な美しい模様を楽しめるのは備前焼ならでは。とても硬いため壊れにくく、実用品としても使いやすい一面を持つのも特徴です。そんな魅力あふれる備前焼に迫る情報をお届けします。
長く受け継がれる伝統工芸品「備前焼」とは
陶器の代表的な6つの産地を指して「日本六古窯(にほんろっこよう)」と呼びます。今回の記事でご紹介する備前もその一つ。備前は現在の岡山県に相当し、特に備前市周辺では今日でも多くの陶器が生産されています。
備前焼の最大の特徴は、釉薬(ゆうやく:うわぐすりのこと)や絵付けといった加工を一切しないということ。古墳時代の中期ごろ海外から渡ってきた須恵器(すえき)の技術を受け継ぎ、2週間ほどの期間、1200度近い高温でじっくりと硬く焼き締めます。雑に扱っても割れないということではありませんが、少しの衝撃ならば持ちこたえられるほど強く、しっかりとした作りです。
備前焼の風合いは、土そのもの。
素朴であたたかみがあり、かつ力強いながらも繊細な雰囲気です。テーブルウェアから花器などのインテリアとして、部屋のどこに置いても日常に深くなじみます。表面を撫でるとザラリとしているのも気持ちよく、昔ながらの焼物という印象です。
窯の中で生まれる独特の美しさ「備前焼の種類」
備前焼では「窯変(ようへん)」という現象を利用して陶器に表情を着けています。窯変とは、「色の変化」のこと。作品を焼くときに窯の中でどれくらい火を当てるか、何か道具を使用するか、このような条件を整えることで、模様や焼き色に変化を持たせます。主な種類としては、次の3つです。
色とりどりの粒々模様が美しい「胡麻(ごま)」
食べ物のゴマのように、点々とした模様が陶器に付きます。この模様の正体は、窯の火にくべる松割木の灰です。高温の窯の中で陶器表面に着いた灰は、釉火という土との化学反応を起こしてガラスのようになります。この現象を利用して、陶器の肌に表情を付けて行くのです。
そのため、胡麻模様の備前焼を作るときには窯の中でも火元に近い場所に作品を置きます。こうすることで陶器に付着する灰の量を多くすることができるのです。
胡麻模様の中には粒が溶けて垂れたロウのように見えるものもあり、このようなものは玉だれなどとも呼ばれます。 完全に溶けきらないままの灰が表面に残ったものを、かせ胡麻と言うなど、胡麻の中にも様々な種類があります。色味は青や黄色、白、黄みがかった白など色々です。
価格:2,860円 |
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まだらな色の変化を楽しむ「棧切(さんぎり)」
火にくべた薪が燃えると、その後には炭が残ります。その炭がゆっくりと赤く燃焼している様子を、熾火(おきび)と言います。桟切とは、その熾火と灰を利用して模様を着けるものです。
窯の床に作品を置いて焼くと、やがて熾火と灰に埋もれて行きます。すると作品周りの空気は淀み、高温の中で包み焼きのような具合になるのです。加熱が進むと表面の色が変化し、美しい独特の模様を生み出します。窯の中にある棧の部分でよく起きる現象だということで、棧切と呼ばれるようになりました。
上記の手法は、熾火と灰に埋もれさせて自然に作ることから自然棧切と言います。作品が焼きあがる直前に窯に炭を入れて作り出す人口桟切という方法もあり、それぞれ別の雰囲気を見せてくれるのが面白いところです。棧切の作品では、灰色から黒へ、黄色へ、赤褐色へと様々な色の変化を楽しめます。より自然な色の移り変わりが好みの方は自然棧切の作品を、パキッとコントラストの利いた作品が欲しいときは人口棧切をと選び方を考えるのもおすすめです。
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モダンな印象の「緋襷(ひだすき)」
土そのものの風合いである薄茶色をベースに、緋色の色味がたすきのように表れるのが緋襷です。作品に藁をたすき状に巻き付けてから、さやと呼ばれる容器に入れて焼き上げることで、このような模様になります。藁に含まれるカリウムや、備前焼の土に含まれる鉄分などの成分が窯の熱で化学反応を起こして、巻いた藁自身の跡を陶器の肌に残すのです。
元々は窯に作品を並べるときに、重なった部分がくっついてしまわないようにする処置でした。藁は耐火性が高いため、作品と作品の隣り合う部分に挟んでおいたというわけです。しかし、その工程でできる模様の美しさから、やがては器に表情を付けるための手法として広まりました。
薄い茶色に美しい緋色の線模様が出る緋襷はモダンな雰囲気で、自宅で利用するとハッとするような鮮烈さを感じることができます。備前焼はこのように、「焼き方」で種類を作り出す焼物です。まさに、火と職人の手技で生み出す逸品であると言えるでしょう。
価格:8558円 |
備前焼の産地で見てふれて購入する「備前焼まつり」へ行ってみよう
備前焼を直接見て好みのものに出会いたいという方に、ぜひおすすめしたいイベントです。備前焼のメッカである伊部地区の通りを中心に、備前焼伝統産業会館、JR赤穂駅伊部駅の周辺で開かれます。開催日は毎年10月の第3日曜日と、その前日に当たる土曜日。
備前焼まつりには数多くの窯元、作家が出品しますので、一日だけのお出かけでも様々な作品をご覧になれます。岡山県内外からたくさんの焼物ファンが集まりその魅力を楽しむ、まさに備前焼の一大イベントです。太鼓などの披露もあり、美味しい出店もありますので、休日を目一杯に楽しめます。
また、備前焼の窯元や作家は、備前焼陶友会に所属している場合があります。陶友会会員が販売する陶器は正札の2割引きで購入でき、お得ということもありますので、興味のある方は足を運んでみてください。
備前焼まつりは毎回とても盛況であるため、道路も用意された駐車場も大変混雑します。車で行きたいという場合、できるだけ朝早めの時間に到着できるようにすると少し余裕を持って駐車できるでしょう。
陶友会では公共機関の利用を推奨しています。開催2日の間は、電車であればJR赤穂線伊部駅の上り・下り共に30分ごとに電車が1本出るほか、岡山から伊部方面行き「伊部駅前」下車のバスが利用可能です。
駐車場、公共機関の利用については変更の可能性がありますので、陶友会のHPにて確認してください。
https://touyuukai.jp/
自分の手でお気に入りの陶器を作る「備前焼体験」
丁寧なレクチャーで好きな作品を作れる「五郎辺衛窯」
土ひねりで茶碗や湯のみ、コップなどが制作できます。土ひねりとは、手動で回すろくろを使って形を作って行く陶芸の手法です。 使える土の量に応じて、自由な作品作りを楽しめるのが五郎辺衛窯の特徴です。
土は、コースに応じて400g、600g、1,000gのいずれかが提供されます。湯のみや茶碗なら400g、少し大きなお皿や複数の食器を作るなら600g、パスタ皿など大きな食器やたくさん作りたいときには1,000gなど、作りたいものに応じて相談してみるとよいでしょう。窯変に関しても詳しく教えてもらえレクチャーも受けられますので、ぜひ作りたいイメージを伝えてみてください。
所要時間は2~3時間ほど。
料金についてはコースごと(土の量ごと)に異なりますので、HPよりご確認ください。
https://www.gorobee.net/
作った陶器は体験から3か月後に郵送されます。
美しい岡山城の天守閣で陶芸体験「岡山城備前焼工房」
岡山県には黒塗りで仕上げた下見板が特徴的な、岡山城(別名・烏城 烏とはカラスのこと)があります。その天守閣に、お目当ての岡山城備前焼工房は設置されています。
制作物は小鉢、湯のみ、丸皿、角皿(各1個・1枚)、箸置き(5個)、葉皿(2枚)の6種類から選べ、箸置きでは胡麻、その他で緋襷模様を着けることが可能です。制作は土ひねり、焼成は電気窯となります。制作の前後で岡山城を見学したり、公園内のカフェやショップなどを散策したりするのもおすすめです。JR岡山駅から徒歩6分ほどの立地ということもあり、観光の方にも便利な環境であると言えるでしょう。
所要時間は60分ほど。
予約優先となりますので、HPよりご確認ください。
https://okayama-castle.jp/bizenyaki-kobo/
焼き上がりまでには1~2か月ほどの日数を要します。
備前焼の元になった陶器も見られる「寒風陶芸会館」
寒風陶芸会館は、岡山県瀬戸内市にあります。こちらでも体験できるのは土ひねりです。本格的に窯変まで考えた備前焼の制作ができる他、備前焼の工程にはない絵付けなどの体験もできます。
制作できる品物は、湯のみ、マグカップ、茶碗、お皿、小皿、花器などです。寒風陶芸会館内には備前焼の前身に当たる須恵器を見学できる施設も入っていますので、興味のある方は足を運んでみても楽しいでしょう。
所要時間は1時間~1時間30分ほど。
備前焼の体験は通常8月~12月の間で行われています。
料金は一人当たり2,530円です。(令和5年1月現在)
予約優先の可能性がありますので、HPよりご確認ください。
予約申し込みフォームの案内もあります。
https://www.sabukaze.com/school.html
窯出し(作品の取り出し)は体験翌年の3月ごろ。
詫び寂びを感じる備前焼を取り入れて毎日を彩る
備前焼は決して派手な焼物ではありません。ですが、土のあたたかみや、火と道具の工夫で生じる独特の美しさを持った器です。毎日の食卓やお部屋のコーディネートに加えると、主張しすぎないけれど存在感のあるアイテムとして役立ちます。あなたの毎日の暮らしに、ぜひ備前焼を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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