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オルセー美術館が誇る印象派の傑作が集う展覧会「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」が、2025年10月25日〜2026年2月15日まで国立西洋美術館(東京・上野公園)で開催中です。
19世紀半ば、産業革命と都市化が進むなか、印象派の画家たちは自然光のもとで制作する「アン・プレール(en plein air)」の手法を用い、移ろう光や大気の表情を生き生きと描き出しました。しかし、彼らが見つめたのは陽光あふれる風景だけではありません。窓辺の柔らかな光や家族が過ごす室内など、日常の“内なる世界”にも関心を向けました。
本展では、印象派の画家たちが“室内”という空間の中でどのように光・影・色彩を探求し、また都市生活・日常風景・装飾美術へと視野を広げていったかを、約100点の作品を通じてたどります。
印象派の殿堂オルセー美術館

オルセー美術館は、1986年に開館したフランスの国立美術館。かつてのオルセー駅舎(1898〜1900年建設)を改装した建物で、セーヌ川左岸・パリ7区に位置します。展示は1848年から1914年までの西洋美術を中心に、ルーヴル美術館(古典〜19世紀前半)とポンピドゥー・センター(20世紀以降)の間の時代をつなぐ作品群を収蔵。絵画、彫刻、工芸、写真など多彩なジャンルを網羅しています。世界屈指の印象派・ポスト印象派コレクションを誇り、マネ《草上の昼食》、モネ《ルーアン大聖堂》、ルノワール《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》などの名作が並びます。
印象派が描いた“室内”の世界を、4つの章で紹介
本展は、印象派の画家たちが描いた肖像や室内を舞台とした日常の情景、室内に差し込む光と持ち込まれた自然、そして生活空間を彩る壁面装飾まで、4つの章で構成されています。ここでは、それぞれのテーマを、見どころの作品とともにご紹介します。
第1章|室内の肖像 創作の空間で/モデルを映し出す部屋で

19世紀、サロン(官展)や美術市場を席巻した肖像画は、印象派の画家たちにとっても重要な表現手段でした。彼らは人物を日常の環境のなかに置くことで、その人となりや社会的な背景をも描き出そうとしました。ときに風俗画との境を越えながら、同時代の人々を生活空間のうちに描いた印象派の肖像画――それは、彼らが追求した「現代性」を体現する重要なテーマのひとつだったのです。

アトリエを舞台にした仲間内の肖像画では、画家や文筆家といった友人たちが登場し、画面には交友関係や芸術理念などを象徴する道具立てが散りばめられています。一方、社交界に向けた公的な肖像画では、当時流行した衣装や洗練された家具調度が描かれ、室内はモデルの「良き趣味」や社会的ステータスを表す舞台となりました。

さらに、家族を描いた集団肖像に目を向けると、家庭を包む親愛の情や絆の表現に加え、心理的なドラマがにじみ出ています。そこには、子どもを中心に据える近代的な家族観も見て取れます。

第2章|日常の情景 ― 気晴らし、夢想、親密さ

印象派の画家たちは、身の回りの暮らしのなかに美を見出し、家族や友人との奏楽会、読書や針仕事といった、家庭での楽しみや静かなひとときを絵筆で描きとめました。そこには、親しい人々との関係性がにじむとともに、外の喧騒から切り離された室内ならではの安らぎが漂っています。画面の中では、音楽の響きや談笑のぬくもりまでもが、視覚的に感じ取れるようです。

こうした穏やかな家庭の情景を担ったのは、主に女性たちでした。当時、男性が公共の場で社会活動を行う一方で、家庭の内側――私的空間こそが女性の領域とされていたからです。画家たちはその空間に宿る静けさや夢想の時間を描き出し、室内という限られた舞台に無限の詩情を見出しました。

さらに、より深い親密さを湛える寝室や化粧室といった空間では、身繕いをする女性や、寝台に横たわる姿も描かれます。印象派の画家たちは、神話や歴史といった文脈を脱ぎ捨て、日常の私室を舞台に生身の身体と向き合いました。伝統的なヌードの様式を意識しながらも、理想化を排し、現実の光のもとに浮かび上がる人間の肌や息づかいを捉えようとした――そこには、新しい裸婦表現への挑戦がありました。

第3章|室内の外光と自然 ― 取り込まれる風景、植物

戸外の光と大気の変化を追い求めた印象派の画家たちは、その感性を室内の描写にも持ち込みました。窓辺やバルコニー、テラスといった「内」と「外」の曖昧な空間は、彼らにとって理想的なモチーフです。開かれた窓から差し込む光や、外の風景が反射するガラス面は、室内と自然を溶け合わせ、限られた空間に広がりと生命感をもたらしました。

19世紀の都市では、ガラス温室が流行し、ブルジョワの邸宅にも取り入れられるようになります。植物が満ちるその空間は、人工的でありながら自然との接点をもつ、まさに近代の「インテリア」として機能しました。印象派の画家たちは、光を透かす葉や花々の鮮やかな色彩を通じて、自然と人間の暮らしの新たな関係を描き出しています。

さらに、花々を主題とした静物画もまた、自然を室内に取り込む伝統的な形式として重要な位置を占めます。印象派の画家たちは、この人気ジャンルに挑みながら、花や果実の一瞬の輝きを、筆触と色彩の調和で表現しました。やがて彼らの探究は、ジャポニスムの潮流とも結びつき、自然を着想源とする新しい装飾美の世界へと展開していきます。

第4章|印象派の装飾 ― 室内への新しいまなざし

印象派の画家たちが追い求めた「自然と光の表現」は、やがて壁面装飾という新たな芸術形式へと発展していきます。その到達点のひとつが、クロード・モネによる「睡蓮」の大装飾画です。四方を囲むように配されたその大画面は、観る者を包み込み、自然と一体化するような瞑想的空間を生み出しました。

19世紀後半、絵画や彫刻といった「純粋芸術」と、家具・壁画などの「装飾芸術」との境界が次第に揺らぎはじめ、芸術と生活空間の融合が新たな潮流となります。印象派の画家たちもまた、居住者の暮らしに寄り添う装飾画を手がけ、室内を光と色彩で満たす試みに取り組みました。
モネをはじめとする画家たちの探究は、単なる壁面の装飾を超え、室内そのものを自然の延長と捉える視点へとつながっていきます。光、水、植物が溶け合う空間――それは印象派が描いた“室内の物語”の集大成であり、彼らが見出した「もうひとつの光」の到達点でもあります。


印象派、もうひとつの光の舞台へ

パリ・オルセー美術館から、日本初公開を含む約70点が来日するのはおよそ10年ぶり。さらに、国立西洋美術館やフランスのジヴェルニー印象派美術館をはじめ、国内外の重要作品も加わり、印象派の多彩な表現世界を紹介します。印象派の巨匠たちが見つめた“室内”というもうひとつの舞台で、光と人間が織りなす物語に出会ってください。
会場:国立西洋美術館(東京・上野公園)

休館日:月曜日(11月3日、11月24日、1月12日、2月9日は開館)、11月4日、11月25日、12月28日~1月1日、1月13日
アクセス:JR上野駅公園口から徒歩1分。
公式サイト: https://www.orsay2025.jp

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