桜に託す未来へのメッセージ。
「いわき万本桜プロジェクト」とは

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眼下に田園が広がるツリーブランコ
写真提供:いわき万本桜PJ

原発事故が起きた福島第一原子力発電所から約30~60kmの場所にある福島県いわき市。周りを田んぼと低い山に囲まれた自然豊かな里山の広大な敷地には、現代アートの巨匠・蔡國強(Cai Guo-Qiang、1957年・中国出身、ニューヨーク在住)氏がデザインした「いわき回廊美術館(SMoCA…Snake Musium of Contemporary Art)」(2013年)や彼の手掛ける複数のアート作品が点在。眼下に一面の田園風景が広がる山の上のツリーブランコは、ひと漕ぎすれば空に投げ出されるような爽快感に包まれます。そんないわき市が、9万9千本の桜の植樹を目指す「いわき万本桜プロジェクト」の舞台です。

未来の子どもたちに世界一の桜の山を残したい

イラストレーター佐藤江利子さんが手掛けた未来地
イラストレーター佐藤江利子さんが手掛けた未来地 / 写真提供:いわき万本桜PJ

福島県は2011年3月11日の東日本大震災で原発事故に見舞われました。当時はいわき市の北部地域を含む原発周辺の30km圏内が屋内退避区域となり、多くの人が長期にわたる避難生活を余儀なくされました。

この経験を忘れずに未来へ語り継ごう。世界一の桜の山を作り、子どもたちへの贈り物にしよう。万が一、この土地に住めなくなった時でさえ、この土地を愛した人たちの気持ちが伝わるように、ひとり1本の大切な桜が空からも見られるように――。

いわきに住む会社経営者・志賀忠重さんの思いから始まったのが、いわき万本桜プロジェクトです。中国で「永遠」を意味する「99」の数字にちなんだ9万9千本の桜の植樹を目指しています。

植樹会に参加するには

福島県いわき市桜の植樹会
写真提供:いわき万本桜PJ

いわき万本桜プロジェクトの活動のメインは、定期的に行っている桜の植樹会です。夏季を除く10月から翌年の4月まで、おおむね毎月最終週の日曜日に植樹会を行っています。 植樹を希望する人はホームページから申し込み用紙をダウンロードし、ファックスで事前に申し込みを行えばだれでも植樹会に参加できます。

植樹の作業は基本的にすべて自分たちで行います。山の斜面に穴を掘り、桜を植える作業は思った以上に肉体労働です。冬でも汗がにじむほどですが、作業後に提供されるカレーは体の疲れも相まって美味しいと評判です。

ボランティアスタッフとして活動する人々

いわき万本桜プロジェクトの山は春になると、早咲きの河津桜を皮切りに先始める多種多様な桜や、一面の菜の花畑を目当てに多くの観光客でにぎわいます。そして、この風景を守り、育てるためにたくさんのボランティアメンバーが活動しています。実は、蔡國強氏デザインの「いわき回廊美術館」を作ったのも、のべ約300人のボランティアなのです。

ボランティアスタッフたち
写真提供:いわき万本桜PJ

ボランティア活動に特に明確なルールがあるわけではなく、「できることを楽しんでやる」のが基本的な考え方。メンバーは自分のペースで山に通い、草刈りや桜のせん定、遊歩道の整備などその時々に必要とされる仕事を手伝っています。

作業は月曜日の定休以外(月曜が祝日の場合は火曜が定休)ほぼ毎日。興味がある人は現地に行った際、近くにいるスタッフに声をかけてみるか、または、事前に電話で問い合わせて日程や作業スケジュールなどをたずねておくとスムーズです。

遊び心を大切に、楽しんで続けていく

いわき回廊美術館
写真提供:いわき万本桜PJ

いわき万本桜プロジェクトの活動のベースは植樹会で桜を植えること、そして、日々の下草刈りをはじめとする、いわゆる山仕事。地味で地道な作業を長く続けていくために大事にしているのが、“遊び心”です。
名物になっているツリーブランコやツリーハウス(※現在は老朽化のため閉鎖中)も、もともとはボランティア作業の息抜きにと作ったもの。ハイキングコースになっている長い遊歩道は、ビューポイントごとに東屋や見晴らし台が設置されていて、疲れた体を癒すのにもってこいです。
そのほかにも、会員制のトランポリンや人生で大切にしたい一人一冊ずつの寄贈本を集めた「一人一冊の図書館(SOLOUNO)」など、遊びの要素がそこかしこに散りばめられています。何事も飽きずに長く続けていくには、自分たちが楽しむこと――。こうした遊びの要素こそが、人々を引き付けて止まない魅力の一つなのかもしれません。

人々の心と心をつなぐアートの力

いわき万本桜プロジェクトの山は、現代美術ファンにとっても特別な場所になっています。 プロジェクトを発足当初からサポートしているひとりがアーティストの蔡國強氏。蔡氏は、ヴェネツィア・ビエンナーレの金獅子賞など国際的な美術賞をいくつも受賞している著名なアーティストで、2008年の北京オリンピックの開会式で発表した花火「歴史の足跡」によって、世界中の人に知られる存在になりました。

いわき回廊美術館の交流会
写真提供:いわき万本桜PJ

かつて日本に留学した際にいわき市民と交流を深めた蔡氏は、東日本大震災を機に始まったプロジェクトに共感して「いわき回廊美術館」をデザインし、オープニングで火薬画を制作するなど、いまもいわきに通い、いわきの人々と作品を作り続けているのです。 ツリーブランコがある丘の上にも過去の作品「廻光―龍骨」(1994年、いわき市立美術館)が鎮座しています。

福島県いわき市で未来へつなげる体験を

いかがでしたか。桜の植樹に気持ちよく体を動かせるボランティア体験、そして、現代アートを巡る唯一無二の旅。いわき万本桜プロジェクトは桜の景色以外にも見どころが満載です。
少しスリリングなツリーブランコに身を委ねてみれば、日常の煩わしさもいつの間にか忘れ去ってしまうかも。何かと気忙しいこのご時世、ほんの少し時計の針を緩めて、心に響く体験をしてみてはいかがでしょうか。

いわき万本桜プロジェクト
0246-88-8970
※お出掛けの際には、必ず最新情報を施設の公式ウェブサイトでご確認いただくか、施設にお問い合わせください。

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