「トーベとムーミン展 〜とっておきのものを探しに〜」
トーベのまなざしとムーミンたちの秘密にやさしく包まれる展覧会

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トーベ・ヤンソン「ムーミンたちとの自画像」と本展のキービジュアル

2025年7月16日(水)から9月17日(水)までの会期で、六本木の森アーツセンターギャラリーにおいて「トーベとムーミン展 〜とっておきのものを探しに〜」が開催中です。フィンランド・ヘルシンキ市立美術館(HAM)の協力で実現した本展は、日本初公開の貴重な作品を含む約300点が一堂に会する見逃せない内容です。

️ムーミンたちの“とっておき”に出会える、特別な夏へ

写真左から、開幕に際して来日したヘルシンキ市立美術館(HAM)の館長アルヤ・ミッレル氏、ムーミン、HAMキュレーターのヘリ・ハルニ氏 。

「ムーミン」小説のはじまりから80年――その扉は、今も誰にでも開かれている。2025年、「ムーミン」小説の第1作が出版されてから80周年を迎えます。本展はそれを記念した、原作者トーベ・ヤンソンの創作の世界に迫る展覧会です。80周年テーマは、“The door is always open”。ムーミン谷の住人たちが自由に行き来し、鍵のかからないやしきで思い思いに過ごすように、この展覧会もまた同様に訪れる人をあたたかく迎え入れてくれます。油彩画、風刺画、漫画、絵本、小説など多才な表現を続けたトーベ・ヤンソンの創作の軌跡を、約300点の作品とともにたどりながら、ムーミンたちが語り続けてきた「帰る場所」の大切さを、あらためて見つめてみませんか。

画家、作家、そして表現者。ムーミンだけじゃない、トーベのもうひとつの顔へ

「山猫の毛皮をまとった自画像」(写真右)ほか、トーベの油彩画の数々の展示風景。

「ムーミン」の生みの親として知られるトーベ・ヤンソン。けれど、彼女の創作の世界はそれだけでは語りきれません。1914年、フィンランド・ヘルシンキに生まれたトーベは、彫刻家の父と挿絵画家(グラフィックアーティスト)の母を持つ芸術一家で育ち、10代で政治風刺雑誌に挿絵を描き始めました。
画家としての活動を皮切りに、壁画、絵本、児童文学、さらには大人向けの小説へと表現の幅を広げていったトーベ。本展前半の展示では、油彩画や風刺画、スケッチなど、「ムーミン」以前の貴重な作品が一堂に。印象派や抽象画の影響が感じられる油彩画や市庁舎や病院、保育園など、公共施設のためのアートを通して、芸術家トーベ・ヤンソンの知られざる軌跡に出会えます。

アウロラ病院小児病棟のコンペティション用の3点のスケッチ「遊び」の展示風景。「壁画は若い患者たちの注意を引きつけ、彼らがこれから受ける医療処置から気をそらすためのものでした。(ヘリ・ハルニ氏)」
映像で紹介される「フェアリーテイル・パノラマ」は、保育園のためにフレスコ・セッコ技法で描かれたもの。
トーベが愛用した画材たち

「ムーミン」誕生物語─不安な時代が生んだ小さなトロール

トーベが挿絵を描いた政治風刺雑誌『ガルム』1945年イースター号。表紙の右上にはムーミントロールの先駆けとなる「スノーク」が登場している。

ムーミンは、トーベが第二次世界大戦中の不安や孤独のなかで生み出した存在です。最初は細長く不気味な姿でしたが、やがてやさしく愛嬌のあるムーミントロールとして形を変え、小説『小さなトロールと大きな洪水』(1945)で本格的に登場しました。ムーミンとムーミンママが、行方不明のムーミンパパを探しながら、新しい暮らしの場所を求めて旅をするというストーリーで、最後に彼らがたどり着いたのがムーミン谷。自然豊かで自由に満ちたムーミン谷は、トーベ自身の心の避難所であり、同時に心の奥底にある「平和への願い」が具現化された世界でもありました。

ムーミンが初めて物語の主人公として登場した記念すべき一冊、『小さなトロールと大きな洪水』(1945)の初版本。
トーベ・ヤンソンが描いたムーミン小説の挿絵が、壁一面に広がるダイナミックな映像演出に。静と動が交錯する空間で、物語の世界に没入する新たな体験を。

個性きらめくムーミン谷の仲間たち

ヴィクトリアン・スクラップ、イースターカードほかに描かれたムーミン谷で暮らすムーミン一家と仲間たちの展示風景。個性豊かなキャラクターたちは、誰もがどこかに自分を重ねられる存在。

ムーミン谷に暮らすムーミン一家や仲間たちは、それぞれが異なる個性と人生哲学を持つユニークな存在です。ムーミンは、好奇心旺盛でやさしい心の持ち主です。過去の冒険談にロマンを抱き続ける永遠の少年の心を持つムーミンパパ、どんな時も家族や仲間を包み込む大きな包容力の持ち主のムーミンママ、自由を愛し、風のように生きるスナフキン、小さな体に大きな毒舌と行動力を備えたリトルミイ……。誰もがどこかに自分を重ねられる、そんなキャラクターたちは、子どもはもちろん、大人の心にもそっと寄り添い、深い共感とやさしい慰めを届けてくれます。

ムーミン谷の仲間たちの展示風景。
『ムーミン谷の冬』挿絵の展示風景。
『ムーミン谷の仲間たち(春のしらべ)』壁面の装飾、ムーミン小説の挿絵の展示風景。

️ユーモアと風刺が光る「ムーミン・コミックス」

「ムーミン・コミックス」の展示風景。

1954年、トーベ・ヤンソンは英国の新聞『イブニング・ニュース』で「ムーミン・コミックス」の連載を開始しました。小説や絵本とはまた違った表現の場として、脚本も作画も自ら手がけ、ムーミンたちのユニークな日常を、軽やかなユーモアと鋭い社会風刺で描き出しました。途中からは弟ラルス・ヤンソンが制作を引き継ぎ、全世界で親しまれる人気シリーズとなりました。本展では新聞連載漫画とキャラクターのスケッチを見ることができます。

新聞連載マンガ「ひとりぼっちのムーミン」スケッチ。
新聞連載マンガ「おさびし島の先祖さま」に収録された「孤独な島」のキャラクタースケッチ。

絵と言葉が紡ぐ、「ムーミン」絵本という小さな宇宙

絵本『ムーミン谷へのふしぎな旅』のために描かれたスケッチの展示風景。

トーベ・ヤンソンは、小説やコミックスとは異なる表現として、絵本の世界でもムーミンたちを生き生きと描き出しました。代表作には、読者の想像力をかきたてる仕掛け絵本『それからどうなるの?』や、孤独と希望を描いた『さびしがりやのクニット』、幻想的な旅を描く『ムーミン谷へのふしぎな旅』などがあります。これらの絵本では、詩的で哲学的な物語と美しいイラストが融合し、彼女の画家としての感性が光る作品群となっています。本展では『ムーミン谷へのふしぎな旅』のスケッチを見ることができます。

絵本『ムーミン谷へのふしぎな旅』誌面とスケッチの数々。

️「ムーミン」の世界をもっと楽しむなら、限定グッズとコラボメニューもチェック!

鑑賞後のお楽しみは、さまざまな「ムーミン」グッズが購入できる特設ショップ。 公式図録ほか本展覧会のために用意されたオリジナルグッズも数多く並びます。

『トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~』特設ショップ。
写真左から、展覧会限定のアーモンドクッキー缶(2,268円[税込])、チョコクランチ缶(2,160円[税込])、オリジナルブレンドティー(2,376円[税込])、オリジナルブレンド珈琲(1,080円[税込])。
トーベの個性が光る自画像《タバコを吸う娘》が、洗練されたデザイン雑貨に。ノート(1,210円[税込])、エンベロープケース(990円[税込])ほか。

会場と同じフロア(52F)にあるレストラン「THE SUN & THE MOON (Cafe)」では、7⽉16⽇(⽔)~9⽉17⽇(⽔)の期間限定で、『トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~』とのコラボレーションカフェをオープンします。

「THE SUN & THE MOON」のコラボメニュー。フードメニューは手前左から、「ムーミンママの手料理」(1,620円[税込])、「フィッシュフライのオープンサンド〜スナフキン〜」(1,850円[税込])、「小さな島のワンプレート」(1,750円[税込])。
全100席、すべてがムーミンの世界。テーブルごとに広がる、物語のひとコマ。
THE SUN & THE MOONCafe
※お出掛けの際には、必ず最新情報を各施設の公式ウェブサイトでご確認いただくか、各施設にお問い合わせください。

トーベが描いた“とっておきのもの”を探しに

展覧会キービジュアル

ムーミンたちの物語が生まれて80年。変わることなく私たちを迎えてくれるその世界には、今もやさしさとぬくもりが息づいています。トーベ・ヤンソンが語り続けてきた「帰る場所」。本展では、そんな彼女の創作の軌跡を、豊かな作品群とともにたどることができます。ムーミン谷の扉はいつでも開かれています。とっておきの夏に、あなたもその扉をそっと開けてみませんか?

「トーベとムーミン展〜とっておきのものを探しに〜」
会期:2025年7月16日(水)~9月17日(水)
会場:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52F)
開館時間:10:00~18:00
休館日:会期中無休
※ただし金曜日・土曜日・祝前日は20:00まで
※土曜日・日曜日・祝日、8月12日(火)~8月15日(金)、9月16日(火)~9月17日(水)は日時指定予約制
※入館は閉館30分前まで
その他、詳細については展覧会公式サイトでご確認ください。

◎巡回先
北海道・北海道立近代美術館 2025年10月1日(水)~11月24日(月・振休)
長野・長野県立美術館 2026年2月7日(土)~4月12日(日)
愛知・松坂屋美術館 2026年4月25日(土)〜6月14日(日)
※各会場の詳細情報は、詳細が決定次第、公式サイトにてお知らせします。
※会場により、一部展示内容が異なる場合があります。
※お出掛けの際には、必ず最新情報を各施設の公式ウェブサイトでご確認いただくか、各施設にお問い合わせください。

本記事の写真はすべて筆者が撮影したものです。
©Moomin Characters™ / ©Tove Jansson Estate

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小坂伸一
EXSENSES公式ライター

海外ガイドブック編集長を経て独立。現在はフォトグラファー・ライター・編集者として、企画から制作までトータルに手がけている。映画・ドラマのロケ地を巡る旅をライフワークに。雑誌連載を通じて、その魅力を発信中。

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