当サイトではアフィリエイトプログラムを利用しています。
背表紙に四つ葉のクローバーが目印の出版社「野ばら社」。同社の『図案辞典』と『図画辞典』は、80年以上のロングセラーを誇っています。しかし、昨今のデジタル化に伴い、売上が減少しているといいます。
この図案集を「どうにかして形に残すことができないか」「絶対になくしたくない」という強い思いが、新しいチャレンジとして動き始めています。今回は、「野ばら社」が行なっているさまざまな取り組みに注目していきます。
出版社「野ばら社」とは
野ばら社は、東京都北区にある昭和4年創業の出版社で、図画図案、書道、音楽など実用書を出版しています。創業者の志村文蔵氏が設立し、戦中の活動中断はありましたが、昭和21年に出版業を再開し現在に至ります。
昭和初期から出版している『図案辞典』は、『図画辞典』とともに改訂し版を重ねてきた80年以上のロングセラー商品です。もともとは辞典を見ながらイラストを真似して描くための本でしたが、昨今のデジタル化にともない、パソコンやプリンタで簡単に複製できるようになりました。それは、『図案辞典』をはじめとする同社の図案集の売上の減少にも影響しているといいます。
また、子ども向け時事解説本『児童年鑑』は、戦中を除き昭和32年版まで続く大ヒット書籍となりました。現在でも「野ばら社」が70歳以上の方に圧倒的な知名度があるのは、そのためです。
そんな野ばら社を「若い世代にも知ってもらいたい」と90周年を期に出版以外にも新たな試みを始めました。それが、自社図案集をもとに種々のグッズを作成し販売する取り組みです。
山中湖にあるカフェ「café citron」との取組み
山梨県の山中湖村にある原材料にこだわったスイーツ店「café citron(カフェ シトロン)」と連携し、新たな企画にチャレンジしています。
もともと「café citron」は、今回取材を行った野ばら社の大橋さんが絶大な信頼をおいている友人のお店。繊細なアイシングクッキーを職人のように作リ出すことから「この人なら野ばら社の図案を素敵にお菓子にしてくれる!」と相談し、初めての試みで行ったのが「母の日ギフト」でした。
内容は、『図案辞典』の本とクッキー缶、図案を活版印刷したコースターや野ばら社のしおりをセットにしたもの。図案集から「カーネーション」を選び何度も試作しました。
当初は「予約がくるかな?」と不安を抱えながらおそるおそる告知していたそうですが、蓋を開けてみると予定数が2日で完売と大人気でした。「SNSでの発信により若い世代にも知ってもらえるきっかけになり嬉しかったです」と大橋さんはおっしゃいます。
「café citron」の方にも変化がありました。コロナ禍でもあり、現在はカフェをクローズし受注制に切り替えて営業しています。
この企画でオンライン受注したことにより、これまで地域中心だった受注が北海道から奄美大島まで文字通り全国へと商品を届けることになりました。野ばら社考案の図案を採用した商品が、全国へと広がり、大きな成果へとつながったといえます。
また、完売告知後も書き込まれたSNS上での「買いそびれた」「またお願いします」とのリクエストに応え、毎年「母の日」や「父の日」のギフトセットを販売することになりました。
今年の父の日には、コーヒーギフトセットを販売。もちろん、デザインは野ばら社の事案を使用しています。焼き菓子は賞味期限が到着後10日間程と、品質にもこだわっています。おうち時間をもっと有意義にという願いも込められた商品は、自分へのプレゼントとして購入される事も多く評判となっています。
今回は、更にケースパッケージにもこだわり、コロナ禍とSDGsの面から考えられた商品を考案。クッキーを食べ終わった後は「マスクケース」や「筆記用具入れ」などとして使用できるように工夫されています。
そして、昨年販売して好評だった「千歳飴」が今年も10月に販売開始予定となりました。
昭和の良き本を次世代に残したい
実は、これらの企画は当初反対されていたそう。「出版界全体が厳しい中、図案集自体がもう売れないのにこんなことをしても……」という社内のアラ還世代。それでも大橋さんには、諦めたくない理由がありました。それは、この図案を描いた歴代の画家や野ばら社の社員達、そして先代の存在です。
野ばら社の図案集に収載されているのは、美術学校出身の社員達のカットやイラストだけでなく日本の美術界で活躍された画家のものもたくさんあるといいます。辞典の扉には、洋画家の石川寅治氏や漫画家中野正治氏、版画家の河野薫氏なども名を連ね、特に戦後、画家という職業で食べて行く事が難しかった時代に野ばら社が仕事を依頼し本を出版することで活動を支える側面もあったそうです。
「そういった文化的価値も含めてこの図案集は、まさに会社の宝ものであり、先々にまで残していきたいと思える魅力的なコンテンツが詰まっているんです」と大橋さん。
更に、先代への気持ちが行動を後押ししたそう。
「先代の体調が芳しくなくなり『野ばら社の図案をたくさんの人が持っている姿を見せて先代を元気づけたい。やるしかない』との思いに変わりました」
昭和レトロ図案 ×今の暮らしに寄り添う製品
昭和初期からの由緒ある出版社と、お洒落カフェがコラボとなると一見ミスマッチに感じる方もいるかもしれません。しかし、意外性のあるもの同士が提携することで、驚くべき新たな商品が誕生しています。
昭和ならではのアナログであたたかみのあるコンテンツを残し、そこに近代的な技を取り込むことでより心のこもった商品が生まれていくのではないでしょうか。
SNS等で発信を行うことでつながりが生まれ、図案を使用した商品ラベルの依頼など新しいご縁にもつながっているとのこと。今後は、野ばら社の図案を使ったパッケージやラベルで観光業や飲食業の人たちの背中を押すことができたらと、大橋さんは話します。
今後の事業展開として目指すこと
ゼロからはじめた図案集からグッズを作る取り組みは、着実に育ってきています。9月には、過去の本の装丁を復刻し、トートバックや巾着に採用した商品を販売。
そして、オンラインでも購入できる、『図画辞典』昆虫サコッシュやキッズのTシャツ、シールが新商品として掲載されています。ぜひ、注目してみてください。
当サイトではアフィリエイトプログラムを利用しています。