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2022年7月16日(土)から10月10日(月・祝)までの会期で、六本木の森アーツセンターギャラリーにおいて「特別展アリス― へんてこりん、へんてこりんな世界 ―」が開催中です。昨年の暮れまで約半年間の会期で、英国・ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(略称V&A)にて開催され、大好評のうちに終了した「Alice: Curiouser and Curiouser」の巡回展の見どころをご紹介いたします。

数学者でもあるルイス・キャロルが生み出した『不思議の国のアリス』は、ガーディアン紙が「優雅でユーモアにあふれたナンセンス」と評したように、その独特の世界観は、小説の世界だけでなく映画やアート、ファッションなどの文化現象として広がりを見せました。本展は物語の原点であるルイス・キャロルの構想やジョン・テニエルが描いた挿絵の原画をはじめ、『不思議の国のアリス』の初版が出版されて依頼、160年の間に影響を与えてきた数々の作品と資料約300点が集結。劇場デザインを手掛けるトム・パイパーがデザインを担当した没入型の展示は、見る者を『不思議の国のアリス』の世界へ、遊び心いっぱいの摩訶不思議な空間へと誘います。
本展の展示は5つのパートに分かれています。ルート順にご紹介いたします。

著者ルイス・キャロルの手書きの構想や挿絵を担当したジョン・テニエルの原画や版画をはじめ、物語が生み出された英国の黄金時代とも言えるヴィクトリア朝という時代背景も紹介します。数学者、作家ではない、キャロルのもう一つの顔である写真家としての作品も見ることができるほか、金子國義や酒井駒子ら日本人によって描かれた『不思議の国のアリス』の原画も展示されています。


今からちょうど160年前の1862年7月のある晴れた日の午後、チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン(ルイス・キャロル)は、オックスフォード大学クライスト・チャーチの学寮長であるヘンリー・リドゥルの娘アリス・リドゥルとその姉妹に、アリスという名前の少女が主人公の冒険譚を即興で話して聞かせました。その話を気に入ったアリス・リドゥルが物語として書いてほしいとお願いしたことがきっかけで、キャロルは2年の月日をかけて、挿絵も自身で描いた手書きの『地下の国のアリス』の本をアリスにプレゼントしました。1865年にはその物語をもとにした書籍『不思議の国のアリス』(英題:ALICE’S ADVENTURE IN WONDERLAND)が出版されました。キャロルは、物語が生み出された時のことを「黄金の午後」と呼びました。

『不思議の国のアリス』は、あらゆる表現者に多くのインスピレーションを与えていますが、映画の世界も例外ではありません。本章では、サイレント映画の時代から、1951年公開のディズニーアニメーション『ふしぎの国のアリス』、ティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)、『アリス・イン・ワン ダーランド/時間の旅』(2016)までを紹介します。『アリス』の映画は、さまざまな国で製作されていますが、原作に忠実なもの以外に、時代や文化、社会といった背景を反映させた独創的な「不思議の国」が生み出されました。

公開から70年以上が経過した今でも高い人気を誇る『ふしぎの国のアリス』。ウォルト・ディズニーは、この物語に関心を寄せ、1930年代には長編映画としての製作を企画していたようです。第2次世界大戦をはじめさまざまな障害がありましたが、続編の『鏡の国のアリス』を織り交ぜた脚本とアニメキャラクターとしてのアリスに命を吹き込んだメアリー・ブレアのコンセプト画が完成し、『シンデレラ』公開の翌年の1951年に『ふしぎの国のアリス』は公開され、絶大な人気を博します。


「不思議の国」の持つ世界観は、あらゆるアーティストの想像力をかき立てます。
シュルレアリスムの画家サルバドール・ダリが1969年に描いた挿絵や、草間彌生の絵本『不思議の国のアリス With artwork by草間彌生』、ビートルズのアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のジャケットデザインを手掛けた英国のポップアーティストのピーター・ブレイクの作品などを展示します。



繰り返し舞台化されるアリスの物語では、脚本はもちろん、劇場デザイン、振り付け、そして何よりもステージを彩る舞台衣装に注目が集まります。ロイヤル・バレエ団の『不思議の国のアリス』の舞台衣装やセット模型、公演ポスターだけでなく、ロンドン・ナショナル・シアターで上演された『ワンダー・ドット・ランド』の舞台衣装も並んで迎えてくれます。


ルイス・キャロルとジョン・テニエルが創り出した『不思議の国のアリス』の世界を起源に、幅広い分野で独創的な翻訳が行われた作品が生み出されています。これまでの展示で、「アリスの物語」の持つさまざまな魅力や可能性に触れてきた来場者に、最後の展示が示すメッセージは、あなた自身が「アリスになる」こと。

このコーナーのテーマは、自己表現としてのアリスです。マッドハッターを現代風にアレンジしたヴィクター&ロルフのデザインほか、ヴィクトリア朝をはじめとする歴史的な衣装からインスピレーションを得た、日本発のスイート・ロリータ&パンク・ロリータの衣装の展示もあります。

イタリアのタイヤメーカーのピレリ社は、毎年世界のトップフォトグラファーを起用したカレンダーを制作していますが、2018年は、ファッション写真家のティム・ウォーカーが選ばれました。ウーピー・ゴールドバーグ、ナオミ・キャンベル、パフ・ダディなど、俳優 、モデル 、ミュージシャン 、活動家など全員黒人をモデルにして現代版「不思議の国」を描いています。

キャロルがリドゥル三姉妹に語った物語は、オックスフォードに近いテムズ川の船の上で生まれましたが、オックスフォードの街には、続編の『鏡の国のアリス』の中に登場する「編み物をする羊のお店」のモデルとなった店があります。アリス・リドゥルがキャンディやお菓子を買った小さな店で、今ではさまざまなアリスの関連グッズを売る「アリス・ショップ」になっています。


鑑賞後のお楽しみは、さまざまなアリスグッズが購入できるショップ。V&Aオリジナルのものから、日本開催の本店のために用意されたオリジナルグッズも並びます。

会場と同じフロア(52F)にあるレストラン「THE SUN & THE MOON」では、「へんてこりん」なコラボメニューも楽しむことができます。




アリスの原点から、映画、アート、舞台、ファッションまで、英国ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館と海外所蔵作品を中心とした展覧会であり、「アリスの物語」の魅力を再確認、再発見できる、ファンならずとも見逃せない企画展となっています。あなたも摩訶不思議な<アリスのへんてこりん、へんてこりんな世界>に迷い込んでみませんか。
海外ガイドブック編集長を経て独立。現在はフォトグラファー・ライター・編集者として、企画から制作までトータルに手がけている。映画・ドラマのロケ地を巡る旅をライフワークに。雑誌連載を通じて、その魅力を発信中。