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日々の暮らしに溶けこむコーヒーですが、カップ一杯のコーヒーも、豆を作る人・仕入れる人・焙煎する人・淹れる人と、たくさんの人たちの手を経て、届いたもの。このことを意識する機会は、日常では少ないかもしれません。特にカップから最も遠い生産者については、産地まではわかったとしても、どのような人が豆を育てているのか、思い浮かべられることはほとんどないのではないでしょうか。
兵庫県宝塚市でコーヒー豆を販売する「8 COFFEE ROAST」(ハチコーヒーロースト)には、そのようにカップに注がれたコーヒーと中々結びつくことのない、生産者の顔が浮かんでくるようなコーヒーがあります。
今回は、ハチコーヒーが2019年から輸入しているベトナムの「Future Coffee Farm」の豆について、代表の黒田吉範さんと農園主トイ・グエンさんの出会いの物語も交えながら、ご紹介します。
ベトナムでスペシャリティーコーヒーを作りたい! 農園主トイ・グエンさんの思い
ベトナム最大の都市・ホーチミンから車で約6時間。ランドン省のバオロクという町の山の中に、Future Coffee Farmはあります。農園主トイさん独自の方法で作られる豆は、「赤ワインのような香り」が感じられる美味しさ。「スペシャリティコーヒー」にも認定されるほど、その品質は確かなものです。
「スペシャリティコーヒー」とは、専門機関によって品質を認められた豆のこと。味や香りだけでなく、生産過程や消費者へ届くまでの透明性なども総合的に評価され、非常に高い基準を満たした豆しか認められません。
Future Coffee Farmの豆は、日本だけでなく、アメリカやドイツ、韓国、台湾など世界各地に輸出され、多くの人を魅了しています。
Future Coffee Farm
https://futurecoffeefarm.com
困難な道のりでも希望を持ち続けて
1970年代のベトナムで、8人兄弟の一人として農家の家庭に生まれたトイさん。暮らしはとても貧しく、10代のうちから故郷を離れ、働きました。29歳で結婚・子どもを授かると、家族の将来のために起業を決意。はじめは家族を残し、バオロクの川の中洲の無人島で一人、自給自足をしながら牛を飼い、野菜栽培などで生計を立てました。大変な生活の中でも、トイさんは「努力をすることでいつの日か生活が良くなる」という希望を持ち続けたといいます。
いくつもの困難を経て、トイさんが長年の目標だったコーヒー農園を手に入れられたのは、2011年のことでした。
コーヒー作りを独学で学ぶ
ベトナム産のコーヒーは一般的に、品質や価格の安さから、主にインスタントコーヒーやブレンドコーヒーに使われてきました。現地の農家にとっては、品質の決して良くない豆であっても売ることができてきた、ということでもあります。
こうした状況がありながら、トイさんは、ベトナムで高品質な豆(スペシャリティーコーヒー)を作ることに可能性を見出します。当時、その計画が成功すると信じる人は少なかったといいます。それでもトイさんは諦めず、コーヒーに関する知識を一から独学で学び、寝る間も惜しんで試行錯誤を繰り返しました。
納得のいく品質の豆を作れるまで、約2年。完熟した実だけを使い、手間と時間を惜しまないトイさん独自の方法で、ベトナムコーヒーのイメージを覆す豆が誕生しました。
この豆を作った農家さんを探したい!黒田さんとトイさんの出会い
一方、ハチコーヒーの黒田さんは2017年、現地のコーヒー農園を回るために、ベトナムを訪れます。その際、ベトナム国内でカフェを展開する方から、何種類かの豆のサンプルを受け取りました。帰国後に試飲すると、その中に明らかに他の豆とは違う、とても美味しい豆がありました。
翌年、黒田さんはその豆の生産者を探し求めて、ベトナムを再訪。その豆が、トイさんの農園の豆だとわかりました。連絡を受けたトイさんは、黒田さんに会うために、バオロクから約200キロ離れたホーチミンまで出向いてくれました。
そこから二人の交流は始まり、互いにベトナムと日本を行き来するように。黒田さんがトイさんの元でホームステイをしながら、Future Coffee Farmでの農作業を一緒におこなったこともありました。
共に時間を過ごすうちに、黒田さんは豆だけではなく、トイさん自身の人柄とコーヒーに対する情熱にも惹かれていったといいます。
「トイさんの豆」と言ってもらえるようになった!
ハチコーヒーでFuture Coffee Farmの豆を仕入れるようになってから、黒田さんがコーヒー関連のイベントに参加した時のこと。来場された方から「トイさんの豆ですか?」と、声を掛けてもらえたことがありました。こうした場で生産者個人について聞かれるというのは、滅多にないこと。「生産者さんに幸せになってほしい」「トイさんのことを知ってほしい」という思いを持ってきた黒田さんにとっては、何よりも嬉しい瞬間だったといいます。
※最新情報は、必ず公式ウェブサイトでご確認いただくか、お店にお問い合わせください。
ベトナムコーヒーの未来のために
「ベトナムでスペシャリティコーヒーを作る」という目標を叶えたトイさんが次に見据えるのは、ベトナムコーヒーの未来のこと。
これまでベトナムでは、「コーヒー農家=貧しい」というイメージが根付いてきました。それに対してトイさんは、一から始めたコーヒー農園で家族が生活できるまでになり、幸せになれたという自身の経験を、次の世代へ伝えたいといいます。今後は、現地の子どもたちが小さなうちから高品質なコーヒーに触れ、豆作りについて学べるような場所を築きたいと思いを膨らませます。
その思いはまさに、「将来のベトナムコーヒーという夢を実現する」という思いの込められた農園の名前と重なるようです。
トイさんのコーヒー、どこで味わえる?
トイさんの豆の魅力は、日本国内のロースターさん、喫茶店などへも伝わっています。ここでは、Future Coffee Farmの豆を使ったコーヒーを提供しているお店を2店舗ご紹介します。
カップの背景に広がる物語
一つの出会いをきっかけに、遠く離れたベトナムから日本へ届けられるようになったコーヒー。その美味しさはもちろん、カップに注がれるまでの物語にも思いを巡らせながら、ぜひ一度味わってみてください。
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