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橋爪智之のヨーロッパ鉄道の旅
第1回:3社の競合激しいスペインの高速列車

マドリード・チャマルティン駅にに並んだiryoとAVE

「東洋経済オンライン」や「鉄道ジャーナル」など鉄道専門誌に連載を持つ、ヨーロッパ鉄道ライターの橋爪智之氏によるヨーロッパ鉄道に関する連載記事がスタート。現地在住の視点ならではのヨーロッパの鉄道の最新情報やおすすめルートなどを紹介していきます。
第1回目は、2022年11月より大きな変化があったスペインの高速鉄道事情について紹介します。

イタリアの鉄道会社がスペインの高速列車に参入

マドリッド・チャマルティン駅に停車中のiryo

2022年11月25日、スペインに新しい高速列車iryo(イリョ)が走り始めた。しかしiryoは、AVE(アベ)などで知られるこれまでの高速列車とは異なり、スペイン鉄道RENFEが運営している列車ではない。EU域内の鉄道は、オープンアクセス法の施行により官民問わず自由に参入することが可能となり、これまでヨーロッパ各国の鉄道へ色々な企業が参入を果たしてきた。
スペインの高速列車市場へ参入したiryoは、イタリア鉄道の旅客運行子会社トレニタリアと、スペインの航空会社エアノストラム、3大陸11か国で公共交通を運営するインフラ企業グローバルヴィアの3社が共同出資して立ち上げた民間企業ILSA(イルサ)で、車両はすでにトレニタリアで実績のある高速列車「フレッチャロッサ・ミッレ」をスペイン市場向けに改良した車両が用いられる。車両の外見そのものは、「iryo」というブランド名のロゴを除いてイタリアで運行されている車両とほぼ同一で、車両の愛称もトレニタリアの高速列車名と同じ「フレッチャロッサ」である。

3社の鉄道会社が競合するスペインの高速列車

フランス国鉄の低価格列車OUIGOもスペイン市場へ参入

iryoが参入を果たしたスペイン高速列車市場は、前述の通り地元のスペイン鉄道がすでに高速列車網を構築しているほか、2021年にはフランス国鉄SNCFの高速列車OUIGO(ウィゴー)が運行を開始。OUIGOは、フランスでは鉄道版LCCの低価格列車として知られている通り、スペイン市場でも非常に低価格な列車として運行されている。RENFEはこれに対抗するため、既存の高速列車AVEよりも低価格のAvlo(アブロ)というブランドを設定。今回、そこへiryoが参入を果たしたことで、ついに3社による三つ巴の戦いが始まったことになるが、もちろんこれは史上初の出来事である。

▶︎各鉄道公式HP
iryo
URL:https://iryo.eu/en/home

OUIGO
URL:https://www.ouigo.com/es/en

Avlo
URL:https://avlorenfe.com/vlc/home.do

AVE(スペイン鉄道RENFE)
URL:https://www.renfe.com/es/en

3社の高速列車の違いは何か?

マドリード・アトーチャ駅に並ぶAVE

3つも会社があると、利用客側はどれを利用したら良いのか迷ってしまう。いったい、3社にはそれぞれどのような特徴があるのだろうか。
前述の通り、3社の各列車はそれぞれ異なった特徴を持っており、利用者のニーズによって選ぶべき列車は異なってくる。まず、大まかに分けてプレミアムサービスか、格安サービスかの二択に分けられる。前者はAVEとiryoで、後者はAvloとOUIGOだ。
マドリード~バルセロナ間の最低価格で見ると、Avloが最も安く€7、次いでOUIGOの€9が続くが、iryoは€18からとなる。AVEはさらに高価だ。子供運賃は、14歳未満が定額€5のAvloに対し、OUIGOとiryoは3歳以下が無料、14歳未満は定額€5、AVEは3歳以下無料、14歳未満は40%割引となっている。一方で、iryo以外は家族割引という運賃設定もある。

クラスは、AvloとOUIGOは基本モノクラスとなっているが、OUIGOには一部に座席が大きく快適なXLシートを備えており、OUIGO PLUSという€9の追加料金を支払うと、優先的にXLシートへアップグレードされる(空き状況によるのでXLシートの確約はされない)。一方のAVEとiryoは、サービス内容によってそれぞれ4種類の価格設定がある。手荷物については、個数や大きさが厳しく制限され、荷物を追加で持ち込むには手数料が取られるAvloとOUIGOに対し、AVEとiryoは多くの荷物を持ち込むことが可能となっている。この辺は航空機のLCCと同じで、持ち込み手荷物は厳しく制限されている。

Wi-fiはOUIGO以外は無料、OUIGOは€3の手数料を取られるが、OUIGO PLUS運賃は無料でWi-Fiサービスを利用できる。今どき、Wi-Fiサービスはほぼ標準となっており、特に若い世代ではWi-Fiがなければ選択肢から外されると言っても過言ではないほど、必要不可欠なサービスとなっているが、低価格運賃と引き換えにそこを有料としたOUIGOは、一番の主要顧客となり得る若い世代の人たちからどう評価されるのか。

Iryoの2等車車内

車内ケータリングについては、Avloは自動販売機だけ設置され、有人の車内販売は行われていないが、OUIGOはOUIBARと呼ばれる売店が設けられている。フランス国内で運行されるOUIGOには売店がなく、スペイン独自のサービスである。AVEとiryoはバー車両が連結され、かつ最上級の運賃には食事のシートサービスが含まれている。かつてAVEは、ファーストクラスの座席には全て食事が付いていたが、食事については不要という人もいるだろうから、食事を含まない料金を設定するという流れは自然だろう。同じく、iryoについても食事付きと食事なしの運賃が設定されている。一方で、一切の車内販売がないというのは、ある程度の長時間を乗車する場合、やはり問題があるので、OUIGOで売店を設けたのはこれも正解と言えるだろう。

こうして比較すると、それぞれのサービス内容や運賃設定などは三者三様で、利用客は自分のニーズに合致した会社の列車を選べばよく、選択の幅が広まったと考えれば利用客にとってはありがたい話である。

AVEとiryoに乗り比べをしてみると

ヴァレンシア駅に並んだAVEとiryo

だが乗車してみなければ正確に比較することはできない。そこで、サービスや価格で競合するAVEとiryoを実際に利用して比較してみた。運転速度は同じなので、同じ区間の同じ停車駅の列車であれば、所要時間は両社とも変わらない。
座席の幅や配列は、これも両社変わらず1等は、横2+1列、2等は、横2+2列だ。ただしAVEは、固定式が一般的なヨーロッパでは珍しく、日本と同じような回転式座席を採用しており、常に進行方向向きに座ることができる。一方のiryoは標準的な固定座席を採用しているが、スペインにAVEが走り始めたばかりの頃、後ろ向きの座席に当たった乗客から苦情があり、回転座席の採用に踏み切ったという経緯がある。そのためiryoの固定式座席がどのような評価を受けるかは興味深いところ。
提供される食事は、AVEもiryoも悪くはないが、HAIZEAというブランドで提供されるiryoの食事は、生ハムやチーズなど地元スペインの新鮮な食材を使ったタパス(スペイン風おつまみ)で、見た目にも非常に洗練されている。
面白いところでは、AVE車内ではスペインの伝統でもある天井モニターで、映画やドキュメンタリーなどの娯楽映像が放映されているところ。どれだけの人が視聴しているかは分からないが、今も続いているということは、一定の視聴者がいるのだろう。iryoにはこうしたサービスはないが、全クラスで無料Wi-Fiを使用できるため、特に娯楽に困ることはないだろう。

スペインの高速列車乗り比べ旅も一興

AVEはスペイン鉄道のプレミアムサービスに位置付けられる

首都マドリードを拠点として、所要都市への高速鉄道網が完備されているスペインの旅行には、高速列車が欠かせない足となっている。特にマドリード~バルセロナ間は、航空機ではなく高速列車を使った方が便利である。
iryoは走り始めてまだ間もないので、これから利用客の声や評価が聞こえてくることだろうが、洗練されたサービスは大いに期待を抱かせるものだった。RENFEのAVEとAvlo、SNCFのOUIGO、トレニタリアのiryoの3社4種の列車サービスを利用する機会があれば、乗り比べてみるのも一興かもしれない。


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橋爪 智之(はしづめ ともゆき)
EXSENSES公式ライター

欧州鉄道フォトライター
1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住