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スーパーマーケットと民族衣装に見るブルネイ流「調和と共生のカタチ」

Writer: 中園 ケイコ
スーパーマーケットと民族衣装に見るブルネイ流「調和と共生のカタチ」

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東南アジアのボルネオ島北部に位置する、ブルネイ・ダルサラーム国。東京からロイヤルブルネイ航空の直行便で、約6時間の距離です。
黄金に輝くモスクと豊かな自然が美しいこの国には、観光名所だけでは測れない日常の仕組みがあります。その根底にあるのは、異なる文化や信仰を持つ人々がお互いの尊厳を保ちながら暮らすための「程よい距離感」です。たとえば、「ハラルフード」が暮らしの前提として当たり前に存在する一方で、異なる文化を持つ人のための「ノンハラルコーナー」が共存するスーパーマーケットの風景。あるいは、規律を守りながらも自分らしく華やかなおしゃれを楽しむ民族衣装。
その穏やかな空気は、どのように育まれているのでしょうか。ブルネイの多様性がもたらすライフスタイルから、お互いを自然に気遣う「調和と共生のカタチ」を紐解いてみましょう。

インスタント麺「インドミー・ミゴレン」の箱と袋が積まれた棚

ハラルが当たり前の日常。スーパーに垣間見る多文化共生

ブルネイの社会のあり方と人々の暮らしの知恵を最も身近に感じられる場所。それが、地元の人々が日常的に行き交うスーパーマーケットです。観光地では見えない、この国の日常の仕組みがここにあります。

色鮮やかな南国の食材が並ぶ売り場

店内には色鮮やかな南国フルーツが並び、マレー料理に欠かせない食材がところせましと陳列されています。ブルネイでは、市場に並ぶ食べ物の多くが宗教省の認証を受けた「ハラルフード」。国民の70%を占めるイスラム教徒が安心して食品を選べるよう、売り場全体がその前提で整えられているのです。

「NON HALAL SECTION」の案内板が掲げられたマーケット通路

「Non-Halal」コーナーに隠れた気遣いの仕組み

そんな売り場を歩いていると、「Non-Halal」(ノンハラル)と書かれた特設コーナーに気づきます。一般の売り場から区切られ、レジも別に設けられたこのコーナーには、ブルネイで生活する非ムスリムのための「ノンハラル食材」——豚肉や豚肉加工品、調味料などが並んでいます。ムスリムの人々が意図せずハラルでないものに触れるリスクを防ぐ仕組みを作る一方で、ノンムスリムの嗜好や利便性も決して否定しません。ノンハラルコーナーは、そうした人々の食文化を守るための場所でもあります。

菓子店の棚

どちらか一方に合わせるのではなく、それぞれの価値観を尊重する。一見すると「分離」されたこの不思議な空間作りこそ、お互いを気遣うブルネイ流「共生のカタチ」なのです。違いをなくして混ぜ合わせるのではなく、境界線を尊重し合うことで、トゲのない穏やかな関係が築かれています。

身にまとう、鮮やかな一人ひとりの個性

ブルネイの街を華やかに彩るもののひとつが、マレー系ムスリムの女性が日常的に楽しむ伝統的な民族衣装「Baju Kurung(バジュクロン)」です。マレー語でバジュは「衣服」、クロンは「包み込む」を意味し、その名の通り身体を優しく包みこむ仕立てが特徴。単なる民族衣装にとどまらず、文化的な調和とそれぞれが自分の個性を輝かせるような、ファッショナブルでエレガントな魅力に満ちています。

オーダーメイドが根付く、布と人の文化

この衣服文化の大きな魅力のひとつが、今でも「オーダーメイド」の習慣が暮らしの中に根付いていることです。街のテキスタイルショップ(布地専門店)には、世界中から集まった美しい布地がロールごとずらりと並んでいます。

女性たちは家族の集まりや大切なイベント、オフィスウエアにと、自分が一番心ときめく布を選びます。そして馴染みのテイラー(仕立て屋)のもとへ布を持ち込み、袖の長さやシルエット、襟元のデザインなど細かな要望を伝え、心地よくフィットする自分だけの一着に仕立ててもらうのです。このバジュクロンを美しく着こなしているのは、マレー系ムスリムの女性たちだけではありません。ブルネイで暮らす中国系や他の民族、そして海外から来てブルネイで生活するノンムスリムの女性たちも、式典や公式行事、あるいは日々の日常着として、それぞれのスタイルでこの伝統衣装を楽しんでいます。

生地ショップの店内

「特定の宗教の服だから」という心の壁はそこにはありません。流行に流されるのではなく、伝統を纏いながら自分らしく装う。異なる文化の美しさへの敬意が、一着一着に静かに宿っています。

ムスリムの女性が華やかなヒジャブで個性を表現するとなりで、ノンムスリムの女性が髪をほどいたままバジュクロンを着こなしています。信仰も背景も異なる人々が、同じ一着に美しさを見出す。その静かな共鳴こそ、ブルネイの多様性が生み出す穏やかな「調和のカタチ」なのです。

ブルネイの夕暮れの空

「違いをなくす」のではなく「違いを尊重する」思いやり

文化や信仰、習慣の違いを無理に変えようとせず、お互いが大切にしているものを認め合う。その成熟した「程よい距離感」が、この国の日常に静かに宿っています。

スーパーマーケットの明確な「分離」も、それぞれのスタイルで楽しむ民族衣装も、異なる価値観を否定せず受け入れ、違いを尊重し合うという成熟した思いやりの精神に基づいているのです。その土地に暮らす人々の日常に触れ、自分とは異なる価値観に出会うこともまた、旅の醍醐味。 日本とは違う時間の流れに身を置き、その優雅に流れる時間をそのまま受け入れるだけで、日々の生活の中で少しすり減ってしまった心が内側からじんわりと癒されていくのを感じることができます。

もし次の旅先を探しているなら、穏やかで優しいブルネイの扉を開いてみてはいかがでしょう。ブルネイの旅をもっと知りたい方は、こちらの記事もあわせてどうぞ。

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2001年よりブルネイ・ダルサラーム国に暮らすフリーライター。ブルネイの穏やかな時の流れに身を任せ、日々言葉を紡いでいます。座右の銘は『知足者富』と『笑う門には福来たる』。